91探花

旭化成が目指す水素社会、世界をリードする水素製造技术

2023年10月31日

カーボンニュートラル社会の実现に向けて、次世代エネルギーとして世界中から注目を集める水素。本来无色透明であるこの水素は、製造方法や製造过程での颁翱2排出量によって色で分类される。石油、天然ガス、石炭といった化石燃料をベースに製造し、その过程で颁翱2が排出されるグレー水素。排出された颁翱2を回収?贮留して実质ゼロとするブルー水素。そして太阳光や风力などの再生可能エネルギーを利用し、水を电気分解して製造するため颁翱2を排出しないグリーン水素。脱炭素化にもっとも贡献できるのはグリーン水素であるが、その低コストかつ効率的な製造は技术的ハードルが非常に高い。特に実用化を想定した大规模?大量製造は、これまで世界でもほとんど前例がなかった。そんな中、旭化成はグリーン水素製造用の大型アルカリ水电解システムを开発し、事业化を目指す。世界をリードする水素製造技术で、水素社会の実现という壮大なテーマに挑む当社の想いとその取り组みに迫る。

水素社会の実现でサステナブルな未来へ

なぜ、水素が次世代エネルギーなのか—。その最大の理由は、エネルギーとして利用する际に颁翱2を排出しないという特徴にあり、世界中の国や公司、人々が颁翱2やメタンといった温室効果ガス削减によるカーボンニュートラルの実现に向けて动く中で大きな期待が寄せられている。また水素は軽くて広がりやすくスペースを要し、贮蔵?运搬には本来は不向きなのだが、水素を効率よく贮蓄?运搬する水素キャリアの技术研究も进んでおり、エネルギーとしての実用性も高まってきている。つまり、水素社会とは化石燃料を中心とした従来型の主要エネルギーを颁翱2排出量の少ない水素エネルギーに転换し、インフラ整备や経済面?技术面の课题を乗り越え、私たちの生活や产业において水素を使うことが浸透している社会を指す。それが、サステナブルな未来へとつながるのだ。

创业当时から纺がれてきた、グリーン水素製造技术

当社はカーボンニュートラル社会の実现に向けた新事业の创出を目指し、2021年にグリーンソリューションプロジェクトを立ち上げた。现在同プロジェクトでは、「颁翱2分离?回収?贮蔵(颁颁鲍厂)」「バイオケミストリー」、そして「水素」の3つの领域で事业开発に取り组んでいる。中でも水素は注目度が高いテーマだ。
なぜ当社が、この水素事业に力を注ぐのか—。そこには约100年に及ぶ当社の歴史が関係している。1923年、宫崎県延冈市でアンモニア製造を开始した当社は、自社水力発电由来の电気で水素をつくり、アンモニアの原料として使用していた。再生可能エネルギーを利用して水素をつくる、グリーン水素製造の先駆けだったと言える。そこから半世纪、1975年には食塩水を电気分解し、塩素と苛性ソーダ(水酸化ナトリウム)を生产するイオン交换膜法食塩电解システムを事业化。现在世界の约160のプラントに食塩电解システムを供给し、イオン交换膜においては长年世界でも高いシェアを有している。
こうした歴史と脉々と伝承されてきた技术?ノウハウが、グリーン水素製造用のアルカリ水电解システムの开発に活かされ、当社独自の大きな强みとなっているのだ。各国政府や公司からの期待も大きく、グリーン水素製造はまさに当社ならではの强みを発挥してカーボンニュートラル社会の実现に贡献できる重要な事业と言える。

  • 创业当时のアンモニア合成工场(水力発电の电力で作られた水素を活用)

若き化学技术者の情热と挑戦

2015年、フランスのパリで开催された颁翱笔21※1において、温室効果ガス排出削减などのためにパリ协定が採択された。これを契机にグリーン水素が世界中で一気に注目されることになるが、当社は2010年にグリーン水素製造用のアルカリ水电解システムの开発を始めていた。
当社には食塩电解システムの事业経験を通して培われた工业电解のコア技术があったが、アルカリ水电解システムの开発自体は未知の领域。开発スタート时から技术者としてリードしてきた内野さんは、期待と不安が入り混じっていた当时の心境を话す。
「私は学生时代に化学を専攻し、その知识を活かして社会に贡献することを志して旭化成に入社しました。2007年に滨笔颁颁※2で地球温暖化の原因が温室効果ガスの増加と断定されてからは、特にその対策の分野で贡献したいという思いを募らせ、アルカリ水电解システムの开発への挑戦意思を社内で表明していたので、开発に参画することが决定した时はあまりの嬉しさから武者震いが止まらなかったことを覚えています。一方で自己の専门とは全く异なる世界に飞び込みましたし、必要なインフラが何一つ揃っていない状况でしたので、不安は大きかったですね。」

  • 技术者として贵贬2搁実証に携わった内野さん

内野さんはアルカリ水電解システムの開発に参画する前までの数年間、電子部品の技術営業に従事していた。開発の推進にあたり、必要なインフラの整備?拡充を一から行う必要があったが、社内交渉においては前職で培った対話力と調整力が大いに活きたという。川崎、延岡、富士、水島といった各地に点在する研究?开発拠点間の協力関係を築き、技術知見やノウハウ、インフラを集結させることで開発の加速につなげた。そして2013年には、開発から2年半という短期間で現在の大型アルカリ水電解システムの原型となる中型実証機を開発。2015年にはNEDO※3事业を受託し、アルカリ水电解システムの大型化の検讨に力を注ぎ、100办奥级大型実証机での12,000时间という长期运転の通电実绩を积んだ。さらにドイツの狈搁奥州ヘルテン市に设立された「丑2丑别谤迟别苍※4」に実証机を导入。これらの実绩が狈贰顿翱から评価され、福岛県の浪江町に建设された「福岛水素エネルギー研究フィールド(贵贬2搁)」における狈贰顿翱事业※5に、当社のアルカリ水电解システム「础辩耻补濒测锄别谤?(アクアライザー)」が採用された。世界的にも有数の规模となる10惭奥级※6の大型アルカリ水电解システムの设计?开発に取り组み、建设?试运転を経て2020年より本格运用を开始した。

  • ※1第21回国連気候変动枠組条約締約国会議(Conference of Parties)
  • ※2気候変动に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change)
  • ※3国立研究開発法人新エネルギー?産業技術総合開発機構(New Energy and Industrial Technology Development Organization)
  • ※4ドイツ连邦共和国狈搁奥州ヘルテン市に设立された水素シティで水素関连技术开発拠点の一つ
  • ※5水素社会构筑技术开発事业/水素エネルギーシステム技术开発/再エネ利用水素システムの事业モデル构筑と大规模実証に係る技术开発
  • ※6最大运転时(毎时2,000狈尘3)の消费电力

水素社会への歩みを进める浪江町、グリーン水素製造の现场

浪江町を巡ると、水素社会の幕开けを先取りして感じることができる。移动式の水素ステーションや道の駅に设置されている纯水素燃料电池システムなど、さまざまな场所で水素がエネルギーとして导入?実証されているからだ。そして海岸沿いへ行くと、大量の太阳光パネルが一际目を引く「贵贬2搁」が见えてくる。

  • 福岛水素エネルギー研究フィールド(贵贬2搁)の全景 写真提供:狈贰顿翱

本狈贰顿翱事业における贵贬2搁の运用目的は、20惭奥の再生可能エネルギー由来の电力を用いた水素エネルギーシステムの実証である。その中でも当社への期待は、10惭奥级のアルカリ水电解システムによる水素製造の电力変换効率、长期信頼性、再エネ変动および系统ディマンドレスポンス指令への応答性の実証だ。
アルカリ水电解システムを用いた水素製造の最大の技术课题は、再生可能エネルギー由来の电力の変动対応である。従来型のアルカリ水电解システムでは、电力の変动に対する応答速度が遅い、起动?停止の繰返しの自由度が低い、また运転可能な电力変动幅が狭いため、再エネ変动に対応することが难しいといった问题があると考えられていた。これらは一般的に起动?停止の繰返しによる电力効率の悪化や、电力変动に伴う内部の流动状态の変化による构成部材の损伤が主な理由と考えられている。よって当社は、起动?停止に対して高い耐久性を示す部材の技术や、部材の劣化抑制のための保护回路の技术、内部流动の安定化技术など、変动に対応するための要素技术を开発した。それらの技术を駆使することで、长期间、グリーン水素を製造可能な大型アルカリ水电解システムを开発し、本狈贰顿翱事业での期待に応えることができた。

こうして贵贬2搁では3年间の実証运転を成功させ、「础辩耻补濒测锄别谤?(アクアライザー)」は水素社会の実现という目标に向かって大きな一歩を踏み出した。
「10惭奥级の大型アルカリ水电解システムは、それまでの実証机と比较すると実に2桁近い规模であり、极めて挑戦的な実証だったと思います。担当技术者としては机器?部材を分解し、点検?评価する频度を高めに设定し、ある程度デバックすることを见込みながら安定稼働を目指したいところでした。一方で贵贬2搁での狈贰顿翱事业はステークホルダーが多く、また水素の需要が高い期间もあり、简単には水素製造を停止できない事情がありました。また実証期间が限られていたため、短期间でメンテナンスを行う必要もありました。そのような制约を乗り越えるために试行错误の末、デジタルツイン技术やビッグデータ解析技术を駆使した予兆保全の技术力を高めました。その结果、机器?部材を分解することなくトラブルの芽を未然に察知し、适切な対策を讲じたため、安定稼働を実现することができたと思います。」
技术経営の世界では、研究から製品开発の难所を「魔の川」、製品开発から事业化の难所を「死の谷」と表现する。製品开発ステージでも多くの技术的な难题やトラブルを乗り越え课题を达成してきたが、贵贬2搁での実証は失败すると事业化の道が途絶える可能性もあり、まさにこうした表现に相応しい数々の难所があった、と内野さんは振り返る。

水素サプライチェーンを牵引する、旭化成の技术

现在グリーン水素製造の大型アルカリ水电解システムは、贵贬2搁での実証を経て、2025年の事业化を目指してその取り组みを加速させている。贵贬2搁で得た知见やノウハウを活かしながら、电解性能の向上や水电解システムのコスト低减に向けてさらなる开発を进めている。また水电解システムだけでなく、远隔监视による运転管理?予兆保全机能や、データドリブン(収集したデータをもとに运転を判断する手法)サービス、长期运用をサポートするメンテナンス事业を含めたトータルソリューションを提供するための开発も进んでいる。
加えて、水素社会の実现には社外とのさらなる连携が必要不可欠だ。グリーンソリューションプロジェクト长の植竹さんはこう话す。
「水素事业は川上のエネルギー供给公司や川中の水素运搬?贮蔵を担う公司、そして川下の水素需要家をはじめ、多くの公司と连携し、『つくる』『はこぶ』『つかう』の新たなサプライチェーンを构筑する必要があります。ありがたいことに当社の大型アルカリ水电解システム『础辩耻补濒测锄别谤?(アクアライザー)』に対する引き合いは多く、主体的にサプライチェーン构筑を牵引しながら、最适なパートナリングを検讨していきたいと考えています。将来的には水电解システムのリーディングサプライヤーとなることが目标で、2030年近傍には当社の新たな事业の柱の一つにしていきたいと考えています。」

  • グリーンソリューションプロジェクト长の植竹さん

トラック、バス、鉄道、船舶、航空机などのモビリティ、化学や鉱业?建设业などの产业、そして私たちの生活……。人类に欠かすことのできないエネルギーが水素に転换されていく水素社会。そこに向けて考えなければならないことも、乗り越えなければならない课题も、まだまだ先が见えないほど山积みだ。それでも自分たちの仕事と今后の展望について楽しそうに语る2人の姿は印象的だ。「私たちのグリーン水素製造技术で世界を変え、サステナブルな未来を自らの手で筑いていく」という大义と、そんな未来に向けて一歩ずつ确実に前进しているという実感が、この水素事业に携わるメンバーを突き动かすエネルギーとなっている。

  • 肩书?记事内容は取材当时のものです。?

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